離婚の相談に来た人に、弁護士が最初に聞くのは「何があったか」ではない。まず聞かれるのは、「証拠はどこにありますか」だ。そして二番目に聞かれるのは、「それは、まだ動かされていませんか」だ。

この二つの質問に、はっきり答えられる人は意外に少ない。スクリーンショットはある。でも、法廷が見るのはスクリーンショットそのものではない。法廷が見るのは、原本と、その原本がここまでどう扱われてきたか——つまり保全の経緯だ。証拠の価値は「あるかないか」ではなく、「動かされていないこと」と「取り出せること」で決まる。

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法廷が見るのは「あるかないか」ではない

電子データが証拠として扱われる場面は、もう珍しくない。メッセージのやり取り、送金の記録、写真。どれも「ある」だけでは足りない。問われるのは、そのデータが本物かどうか、途中で書き換えられていないかどうか、そして誰の手に渡ってきたかだ。

中国では 2019 年に民事訴訟の証拠規則が改定され、2020 年 5 月から施行された。電子データについては、その真正性や完全性、そして保全のつながりが証拠としての力を左右することが、規則の形で明確にされた。これは中国だけの話ではない。どこの国の法廷でも、電子データの扱いは同じ方向に向かっている。原本があるか。経緯が説明できるか。そこが争点になる。

つまり、証拠を「持っている」ことと、証拠として「使える」ことは別の話だ。使える状態で残しておくこと自体が、もう一つの仕事なのである。

クラウドは、相手の手も届く場所

まず、多くの人が最初に頼るクラウドを考えてみよう。便利だ。どこからでも見られる。だが、その「どこからでも」が、保全にとっては弱点になる。

夫婦でアカウントを共有していたらどうなるか。相手がパスワードを知っていたらどうなるか。相手がアカウントの名義人の一人だったらどうなるか。パスワードを変えられ、記録を消され、クラウドの中身を空にされる。クラウド上の「削除」が本当に消えたのか、どこかに残っているのかは、当事者が決めることではない。プラットフォームの側の話だ。

「便利だからクラウドに入れておいた」が、後になって「相手に消されたかもしれない」という不安に変わる。法廷で「消されたかもしれない証拠」を出すことはできない。消されていないことを証明するのも難しい。便利さと保全は、ここでは真逆を向いている。いつでも書き換えられるものは、いつ書き換えられてもおかしくない。そう思われた時点で、証拠としての力は弱まる。

スマホは、壊れるし、消えるし、奪われる

次に、スマホそのものに置いておく場合だ。スマホは証拠の入れ物としては、あまりに脆い。

別居のさなかにスマホを取り上げられることは、珍しい話ではない。落として割れることもある。遠隔で初期化されることもある。機種変更のときにデータ移行に失敗して、やり取りの履歴が消えることもある。誰もが一度は経験するような、日常的な事故が、証拠にとっては致命傷になる。

スマホは「持ち歩ける」から安心に見える。だが、持ち歩けるものは、奪われるし、壊れるし、なくなる。証拠の保管場所としては、むしろ一番危うい部類に入る。毎日の生活の道具と、法廷に持ち込む証拠を、同じ一台に同居させておくこと自体が危うい。

自宅は、探せば見つかる場所

では、自宅に置いておけばいいのか。引き出しの奥、クローゼットの上、本棚の裏。自分では「ここなら見つからない」と思っている場所ほど、同じ家に住む人間には見当がつくものだ。

別居前の家は、相手も知っている場所だ。どこに何をしまう癖があるか、相手は知っている。引っ越しのどさくさで紛れることもある。子どもが触ってしまうこともある。「家の中」は、他人からは遠いが、相手からは一番近い場所なのだ。

証拠の価値は「動かされていないこと」

ここまで見てきた手段に共通するのは、「誰かの手が届く」ということだ。クラウドには相手の手が届く。スマホには事故の手が届く。自宅には相手の目が届く。どれも「置いてある」だけで、「保全されている」わけではない。

保全とは、言い換えれば「動かされていないことを示せる状態」だ。誰が、いつ、どう扱ったかがはっきりしていて、経緯に隙がないこと。経緯が正式で、経由する人が少なければ少ないほど、証拠は硬くなる。逆に、誰でも触れた可能性があるものは、法廷では弱い。

証拠は「隠す」ものではない。「保全する」ものだ。隠すことと保全することは、似ているようでまったく違う。隠すのは自分のためだが、保全は法廷のためであり、自分の主張のためだ。だからこそ、保全は正当な手続きでなければならないし、第三者の目に耐えるものでなければならない。

第三者に預ける、という選択

では、どこに置けばいいのか。答えは、両当事者と利害関係のない第三者に、オフラインの形で預けることだ。オンラインに置かない。誰かのスマホの中にも置かない。ネットワークにつながっていない媒体に記録し、番号をつけ、封印し、二人で確認して、写真を撮ってから保管庫に入れる。入庫の記録そのものが、保全のつながりの一部になる。

預けたものは、半年ごとに封印と外観を目視で点検し、写真で記録する。開封しない。触らない。非接触の点検だけが、ふだんの決まりだ。より踏み込んだ点検が必要な場合は、預けた本人の書面による同意がある場合に限る。ここが大事だ。保全の価値は「触らないこと」そのものにあるのだから、保管する側がむやみに触っては意味がない。

技術の話は、ここでは脇に置いていい。暗号化の方式やオフラインの仕組みは、注脚に一行あれば十分だ。本当に大事なのは、人と手順だ。番号がついていること。封印があること。二人で確認すること。専任の人間が保管すること。手順が決まっていて、その手順通りに扱われていること。それが、証拠を「使える状態」で残すということだ。

弁護士が一番困る質問は、「証拠はありますか」ではない。「証拠はどこにあって、動かされていませんか」だ。その質問に、ためらわず答えられる状態を、争いが始まる前に作っておく。それが、証拠保全という仕事の本質である。